アトピー性皮膚炎の新しい治療 ― 生物学的製剤


はじめに
アトピー性皮膚炎は、強いかゆみや湿疹が長期間続く慢性の皮膚疾患です。これまでの治療は、ステロイド外用薬や免疫抑制剤などが中心でしたが、近年は 生物学的製剤と呼ばれる新しい治療薬が登場し、中等症から重症アトピー性皮膚炎に苦しむ患者さんに新たな希望をもたらしています。
当院でも導入している代表的な薬剤は以下の通りです。
- デュピクセント(デュピルマブ)
- イブグリース(レブリキズマブ)
- アドトラーザ(トラロキヌマブ)
- ミチーガ(ネモリズマブ)
デュピクセント(一般名:デュピルマブ)
世界で初めてアトピー性皮膚炎に承認された生物学的製剤です。
- 投与方法:初回600mg皮下注、その後2週間ごとに300mg皮下注
- 作用機序:IL-4受容体αに結合し、IL-4/IL-13シグナルを阻害
- 特徴:喘息や鼻茸にも適応があり、合併症を持つ方にも有効
- 顔面の赤みには少し効果が弱いことがあり、結膜炎の副作用が一定数にみられます。

イブグリース(一般名:レブリキズマブ)
2024年に承認された新しい抗IL-13抗体製剤です。
- 作用機序:IL-13を特異的に阻害
- 投与方法:皮下注射(自己注射可能)
- 特徴:IL-13に特化して抑える選択的治療。デュピクセントと似た効果を示しつつ、副作用プロファイルが異なる点に注目されています。
- 結膜炎の発症がやや少ないとされています。
- 投与3回目までは2週間毎の投与ですが、状態が良い場合は4回目からは4週ごとに投与間隔を伸ばすことができることも特徴です。これにより費用負担も減らすことができます。
- 当院では、経験上16週までは2週間毎の投与をおすすめしています。


アドトラーザ(一般名:トラロキヌマブ)
同じくIL-13を標的とする生物学的製剤です。2003年に発売されました。
- 作用機序:IL-13に特異的に結合し炎症を抑制
- 投与方法:初回600mg皮下注、その後2週間ごとに300mg皮下注
- 顔面の赤みにも効果を発揮し、結膜炎も少ないというデータがあります。
- 薬価が比較的低く、費用負担がやや軽めなのも特徴です。


ミチーガ(一般名:ネモリズマブ)
かゆみに特化した画期的な治療薬です。
- 作用機序:IL-31受容体Aを阻害し、かゆみシグナルをブロック
- 効果:強いかゆみを抑え、掻破による皮膚悪化を防ぐ
- 投与方法:体重に応じて4週間ごとに皮下注
- 特徴:特に「かゆみがつらい」という患者さんに効果が期待されます
- 他の3剤と比較して、皮疹がやや軽めの患者さんにも投与が可能です。


薬剤選択のポイント
どの薬剤も有効性、安全性が高く効果に大きな様みられませんが、効果には個人差があります。
- 世界中で広く使用され使用実績が多いのはデュピクセントです。またIL-4を抑えることによりタイプ2炎症と言われる喘息や鼻炎などにも効果が期待できますので、これらの合併症がある方には第1選択となります。デュピクセントの弱点は顔面の赤みにやや効果が弱く、また結膜炎の副作用も一定数にみられます。頻度は結膜炎より少ないのですが、乾癬様皮疹と言われる特徴的な皮疹がみられることもあります。
- イブグリースはIL-13 のみを抑えるので、結膜炎や乾癬様皮疹の発現が少ないとされます。最大の特徴は、経過が良ければ4回目から4週間毎に間隔を伸ばせることです。1年後の効果としては、2週ごとも4週ごともほぼ同等ですが、2週毎でつづけたほうが早く皮疹が収まることが多いようです。
- アドトラーザはイブグリースと同様IL-13 のみを抑えるので、結膜炎や乾癬様皮疹の発現が少ないとされます。また顔面の赤みにも効果が良いというデータがあります。薬価が比較的抑えられているのもポイントです。
- ミチーガは痒みに対する効果が強いです。皮疹がそれほど重症でなく、痒みが強い方におススメです。特有の皮疹が4割程度の方に出るとされます。最初から4週毎投与で、投与の負担も少ないのがポイントです。
安全性と注意点
いずれの薬剤も保険適用がありますが、投与にはアトピー性皮膚炎の重症度、治療歴などの要件を満たす必要があります。
副作用としては、結膜炎(デュピクセント)、注射部位反応(各薬剤共通)、皮疹などが知られています。
ミチーガは特有の皮疹が一定数の方に出ることが知られています。
当院での取り組み
身原皮ふ科形成外科クリニック院長は、広島県では最も早くデュピクセントを投与し、以降もアトピー性皮膚炎の生物学的製剤投与の経験が多数あります。
また乾癬に対する生物学的製剤投与承認施設を広島県のクリニックでは最も早く取得し、乾癬に対する生物学的製剤投与の経験も重ねています。
患者さん一人ひとりの症状やライフスタイルに合わせ、最適な治療をご提案しています。
アトピー性皮膚炎でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。


執筆者
身原 京美
院長 / 身原皮ふ科・形成外科クリニック
当院は広島で皮膚科専門医と形成外科専門医が診療を行う専門クリニックです。
皮膚科の新しい治療を積極的に取り入れる一方で、高齢者医療にも長年携わってまいりました。また、院長は2人の娘を持つ母として、赤ちゃんからお年寄りまで、幅広い年代の患者さんに対応しております。女性としての視点を活かし、シミやシワなど整容面のお悩みにも親身にお応えするクリニックを目指しています。
皮膚のお悩みは、お気軽にご相談ください。
取得資格
日本皮膚科学会認定専門医 抗加齢医学会認定専門医 日本褥瘡学会認定褥瘡医師 医学博士 日本熱傷学会学術奨励賞受賞 国際熱傷学会誌BURNS outstanding reviewer受賞