アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎は、肌が乾燥しやすく刺激に弱い体質に、さまざまな刺激やアレルギー反応が加わることで発症する慢性炎症性の皮膚疾患です。かゆみを伴う湿疹が繰り返し現れるのが特徴で、鼻炎や喘息の既往がある方や、家族にアトピー性皮膚炎やアレルギー疾患を持つ人が多い傾向があります。
遺伝的要因と環境要因が関与し、根本的な完治は難しいものの、適切な治療とスキンケアにより、症状をほぼゼロに近づけることも可能になっています。


当院では、日本皮膚科学会のガイドラインに基づき、患者さん一人ひとりに最適な治療を提供しています。
当院の特徴
1.皮膚科専門医による診療
当院では皮膚科専門医が診療を行い、一般的な皮膚疾患から難治性の症例まで幅広く対応しています。形成外科専門医とも連携し、機能面・美容面を考慮した治療を提供。些細な肌トラブルも生活の質に影響を与えるため、一人ひとりの症状に合わせた適切な治療で、健康的な肌を取り戻すお手伝いをいたします。
2.最新治療薬の使用実績
当院では、アトピー性皮膚炎や乾癬などの治療に最新の生物学的製剤を導入。従来の治療で十分な効果が得られなかった方にも新たな選択肢を提供します。治療薬の導入はエビデンスを重視し、安全性と有効性を慎重に検討。常に最適な治療を提供できるよう努めています。
3.分子標的薬使用の承認施設
当院は、日本皮膚科学会より「分子標的薬使用施設」に承認されています。分子標的薬は、病気の原因となる特定の分子を狙い撃ちし、高い治療効果が期待できる先進的な薬剤です。重症のアトピーや乾癬に対し、専門的な知識と経験をもとに、より精密で効果的な治療を提供します。
アトピー性皮膚炎の治療ゴール
アトピー性皮膚炎は慢性的な疾患ですが、適切な治療とケアを行うことで、健康な肌を維持できる状態に導くことができます。治療の目標は以下の2点です。
- 症状がほぼない、または軽微で、日常生活に支障がない状態
- お薬の使用頻度も少なくて済む
- 軽い症状は続くものの、急激な悪化が少なく、悪化しても長引かない状態


アトピー性皮膚炎の治療法
アトピー性皮膚炎の治療は、以下の3つを柱としています。
- スキンケア:適切な保湿と日常的なケア
- 塗り薬・飲み薬:注射薬を活用
- 悪化因子の対策:アレルゲンや生活習慣の見直し
スキンケアの重要性
アトピー性皮膚炎の治療において、スキンケアは最も基本となる対策です。肌のバリア機能を強化するために、
- 保湿剤の適切な使用(ヘパリン類似物質、ワセリン、セラミド配合のもの)
保湿剤は刷り込まず、皮膚割線にそって十分な量を使用する
- 入浴後の早めの保湿
- 石鹸やボディソープの選択(低刺激・無香料)、洗浄法(こすらない)
などが重要です。






外用薬による治療
アトピー性皮膚炎の治療では、まず炎症を抑える外用薬を使用します。主に以下の薬剤が使われます。
ステロイド外用薬
炎症を抑える即効性のある治療薬
非ステロイド外用薬
①タクロリムス(プロトピック):免疫抑制外用薬で、T細胞の活性化を抑制することで、炎症を抑えます。
②JAK阻害外用薬(コレクチム):JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬とは、炎症を引き起こすシグナル伝達をブロックする働きで、かゆみや炎症を抑えます。
③PDE4阻害薬(モイゼルト):症を引き起こす物質の働きを抑制し、アトピー性皮膚炎の症状(かゆみや湿疹)を軽減します。
④AhR調節約(ブイタマ―):AhR(アリール炭化水素受容体)を活性化することで炎症を抑え、皮膚のバリア機能を改善します。
炎症が落ち着いた後は、外用をやめるのではなく、副作用の少ない非ステロイド薬に変更し、症状が全くみられなくてもプロアクティブ療法として、再発予防のために定期的に外用薬を使用します。
内服薬による治療
症状が強い場合や外用薬でのコントロールが難しい場合、内服薬が併用されます。
抗ヒスタミン薬(かゆみ止め)
現在アトピー性皮膚炎に最も良く処方される内服薬です。
抗ヒスタミン剤は、ヒスタミンという痒みにかかわる物質の一つであるヒスタミンが作用するのをブロックします。ただ、アトピー性皮膚炎に限らず皮膚炎の痒みは、ヒスタミンのみがかかわるわけではないので、ヒスタミンをブロックしたとしてもかゆみを完全に抑えることは難しいのです。
抗ヒスタミン剤は比較的副作用の少ないお薬であり、特に最近は副作用の少ないものが主流になっています。抗ヒスタミン剤の主な副作用は眠気やだるさです。
これは皮膚では痒みや赤みにかかわるヒスタミンが、脳の中では覚醒維持(しゃっきり、はっきりする)にかかわっているからです。
古いタイプの抗ヒスタミン剤は、内服すると脳にもお薬が届いて脳の中のヒスタミンもブロックされてしまい、眠気やだるさが出ることが多くかったのですが、近年良く使われる抗ヒスタミン剤は、内服しても脳にはお薬が届きにくく、眠気やだるさがほぼ無いものが主流になっています。
免疫抑制剤(シクロスポリン)
■シクロスポリンとは
免疫抑制剤と言われるお薬の一種で1969年に発見され1983年にアメリカで使用が承認された40年以上の歴史がある、定評のあるお薬です。
効果も高く、価格も比較的安価でとても有用なお薬です。
その使用法や副作用の管理は確立されているといってもよい、効果と安全性の高いお薬なのです。
日本では、アトピー性皮膚炎以外にも臓器移植後、ネフローゼ症候群、乾癬
などに保険適応があります。
■シクロスポリンの作用機序
ヘルパーT細胞という、免疫にかかわるリンパ球の一種に作用しIL-2という、炎症にかかわるシグナルの伝達を阻害します。
免疫機能の一部を弱め、拒絶反応や病気の原因になっている炎症反応を抑えることができるのです。
■シクロスポリンの副作用
シクロスポリンには腎機能障害、高血圧などの副作用があり、
定期的な採血や血圧チェックをさせていただく必要があります。
副作用がみられた場合には減量や中止をします。
長期に内服すると、腎機能障害、高血圧のリスクが高まりますので、
アトピー性皮膚炎で保険適応が認められているのは1クール最大12週までとなっています。
JAK阻害薬(ウパダシチニブ・アブロシチニブ)
免疫細胞の細胞膜にあるJAK受容体というサイトカインがくっつく部分をブロックすることで、かゆみや皮膚のバリア機能異常にかかわるインターロイキン4、13、31など複数のサイトカインの働きを抑えるお薬です。
少し広範囲に免疫反応を抑えるため感染症(とくに帯状疱疹や結核など)のリスクがありお薬の導入時と定期的に
採血検査と胸のレントゲンやCTを撮る必要があります。
効果は即効性があり、辛い痒みも比較的すみやかに改善することが期待できます。
注射薬による治療
2018年以降、生物学的製剤(デュピクセント、ミチーガ、アドトラーザ、イブグリース)が登場し、重症のアトピー性皮膚炎患者さんに新たな選択肢が増えました。
■デュピクセント
IL-4、IL-13という炎症に関わる物質をピンポイントに抑えるお薬です。これにより、アトピー性皮膚炎の主な症状である皮膚炎やかゆみ、バリア機能低下に対して効果を発揮します。
■アドトラーザ、イブグリース
IL-13という炎症に関わる物質をピンポイントに抑えるお薬です。これにより、アトピー性皮膚炎の主な症状である皮膚炎やかゆみ、バリア機能低下に対して効果を発揮します。
■ミチーガ
IL-31という炎症に関わる物質をピンポイントに抑えるお薬です。これにより、アトピー性皮膚炎の主な症状であるかゆみバリアに対して効果を発揮し、かき壊しをなくすことで皮膚炎を改善します。
「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」のポイント
2024年、日本皮膚科学会が「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024(ADGL2024)」を発表しました。このガイドラインでは、最新の研究に基づいた診療指針が示されています。
新たに追加された治療薬
新薬の登場により、これまで治療が難しかった患者さんも寛解(症状がほぼない状態)に導くことが可能になりました。
- ジファミラスト(外用薬)
- ネモリズマブ(注射薬)
- トラロキヌマブ(注射薬)
- ウパダシチニブ(JAK阻害薬・内服薬)
- アブロシチニブ(JAK阻害薬・内服薬)
最新の診断・治療アルゴリズム
診断基準や治療の流れも見直され、より効果的で安全な治療選択が可能になりました。
参考文献:日本皮膚科学会誌 2024年 134 巻 9 号 2287-2298




執筆者
身原 京美
院長 / 身原皮ふ科・形成外科クリニック
当院は広島で皮膚科専門医と形成外科専門医が診療を行う専門クリニックです。
皮膚科の新しい治療を積極的に取り入れる一方で、高齢者医療にも長年携わってまいりました。また、院長は2人の娘を持つ母として、赤ちゃんからお年寄りまで、幅広い年代の患者さんに対応しております。女性としての視点を活かし、シミやシワなど整容面のお悩みにも親身にお応えするクリニックを目指しています。
皮膚のお悩みは、お気軽にご相談ください。
取得資格
日本皮膚科学会認定専門医 抗加齢医学会認定専門医 日本褥瘡学会認定褥瘡医師 医学博士 日本熱傷学会学術奨励賞受賞 国際熱傷学会誌BURNS outstanding reviewer受賞