口唇ヘルペスとは
口唇ヘルペスは、唇やその周囲に小さな水ぶくれ(水疱)ができるウイルス感染症です。主な原因は「単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)」で、一度感染するとウイルスは神経節に潜伏し、体調不良やストレス、紫外線などをきっかけに繰り返し再発するという特徴があります。
実は、日本人の約60%がこのウイルスを保有しているとされ、誰でも口唇ヘルペスを発症する可能性があります。多くは幼少期に感染し、自覚がないままウイルスを保有しているケースも多いとされます。
主な症状
口唇ヘルペスは、以下のような経過をたどります。
- 唇や口まわりのピリピリ・チクチクする違和感(前駆症状)
- 数日後に小さな水ぶくれが出現
- 水ぶくれが破れてただれた後、かさぶたが形成
- 約1~2週間で自然治癒


※初感染の場合は、発熱やリンパ節の腫れなど全身症状を伴うこともあります。
感染経路と発症のしくみ
ウイルスは、以下のような経路で感染・再発します。
感染経路
・キスなどの直接接触
・タオルやコップの共用などによる間接接触
親から子へなど、家庭内での感染も少なくありません。
再発のきっかけ
- ストレスや疲労の蓄積
- 風邪や発熱などの体力低下
- 紫外線(日焼け)
- 女性の場合は、月経前後のホルモン変化
治療について
発症初期の治療開始がとても重要です。早めの対応で症状の悪化を防ぎ、回復期間を短縮できます。
主な治療法
・抗ウイルス内服薬(バラシクロビル、ファムシクロビル など)
・抗ウイルス外用薬(アシクロビル軟膏 など)
当院では、再発を繰り返す方への予防的な内服治療や、免疫力が低下しやすい患者さんへの早期対応も行っています。
PIT(Patient Initiated Therapy)
PITは「患者さん自身が前駆症状を感じた時点で、すぐに抗ウイルス薬の内服を開始する治療法」です。
口唇ヘルペスでは、多くの方が「ピリピリ」「チクチク」などの前駆症状を自覚します。この段階で迅速に薬を開始することで、水ぶくれが出る前に抑え込むことが可能になります。
PITの目的と効果
- 発症を未然に防ぐ、または軽症で済ませる
- 治癒までの期間を短縮
- 発症による社会生活への支障を最小限に
実際の研究でも、前駆症状の出現直後に抗ウイルス薬を自己判断で服用することで、病変の形成を防げる可能性が高まるとされています。
ピリピリ・チクチクとした初期症状を感じた時点で、ご自身の判断で速やかに抗ウイルス薬を服用することで、水ぶくれの出現や悪化を抑えることが可能です。
現在、日本では以下の薬剤がPIT目的での事前処方に対して保険適用されています。
ファムシクロビル(ファムビル®)
・1回4錠1日2回、1日限りの内服
・年に3回以上再発する方
・初期症状がわかる方
アメナメビル(アメナリーフ®)
・1回のみの内服
・再発回数に縛りはなく、初期症状がわかる方に処方可能
・より新しい作用機序の薬で、副作用も比較的少ない
※これらの薬剤は、発症後ではなく、「初期症状が出たときにすぐ服用する」ことで最大の効果を発揮します。
日常生活での注意点
- 水ぶくれを触らない、引っかかない
- 患部は清潔に保つ
- タオルや食器の共用は避ける
- 周囲の人にうつさない配慮(特に乳幼児や高齢者)
よくあるご質問(FAQ)
Q.口唇ヘルペスはうつりますか?
A.はい。特に水ぶくれがある時期はウイルス量が多く、接触によりうつる可能性があります。
Q.一度治ってもまた出てきますか?
A.はい。ウイルスは体内に潜伏し、再発を繰り返す可能性があります。ただし、早期治療と生活習慣の工夫で再発頻度は下げられます。
Q.完治はできないのですか?
A.完全にウイルスを排除することはできませんが、コントロールは十分に可能です。再発しやすい方には予防的治療も有効です。


執筆者
身原 京美
院長 / 身原皮ふ科・形成外科クリニック
当院は広島で皮膚科専門医と形成外科専門医が診療を行う専門クリニックです。
皮膚科の新しい治療を積極的に取り入れる一方で、高齢者医療にも長年携わってまいりました。また、院長は2人の娘を持つ母として、赤ちゃんからお年寄りまで、幅広い年代の患者さんに対応しております。女性としての視点を活かし、シミやシワなど整容面のお悩みにも親身にお応えするクリニックを目指しています。
皮膚のお悩みは、お気軽にご相談ください。
取得資格
日本皮膚科学会認定専門医 抗加齢医学会認定専門医 日本褥瘡学会認定褥瘡医師 医学博士 日本熱傷学会学術奨励賞受賞 国際熱傷学会誌BURNS outstanding reviewer受賞